2025年度農林業センサス農業集落調査の継続を求めるアピール
                                                                2022年9月16日
                                                                林業経済学会理事会

  農林水産省が「農林業センサス」で実施してきた農業集落調査(農山村地域調査)は、1955年に始まりました。本調査は70年近くの長きにわたり、全国の農山村のすべての集落についてデータを蓄積しており、その時々の実態や通時的変化の把握や分析などにおいて社会的に大変貴重な統計調査となっています。その調査結果は、これまで農山村に関する政策の立案や実施に利用されてきたと認識します。林業経済学やその関連領域では、農山村の福利厚生の改善や地域振興などのために農山村の社会構造や特性を把握し、農山村問題への対策や、農山村および林業の歴史などに関する研究のためなど、多様な目的において最も基礎的な資料として活用されてきました。
 しかしながら、2022年7月、農林水産省は「2025年農林業センサス」において農業集落調査を廃止するという方針を2025年農林業センサス研究会に対して提案しました(以下「農林水産省提案」と呼びます)。「農林水産省提案」が確定すれば、これまで蓄積されてきたデータの継続性が失われ、農業集落調査が保持してきた通時的な資料としての、また統計的な資料としての価値が大きく損なわれます。
 歴史的・地理的・生態学的に多様性の高い日本の農山村では、集落ひとつひとつの固有性が大きく、全数調査でなければ得られないデータが多々あります。特に中山間地域の研究を旨とする林業経済学会において、「農林水産省提案」は学術的に看過できない重大な問題です。国土強靭化、山地災害への対応、獣害への対応などの政策分野で、農山村集落の有するソーシャル・キャピタル的機能が一層重要視されています。都市−農山村交流や農山村の活性化、あるいは森林サービス産業といった文脈でも、農山村の集落や住民が主体的に地域資源を活用し、地方創生を図ることが期待されています。こうした新たな動向の分析や様々な政策などに関する効果の測定においても、集落調査の貢献は今後ますます大きなものになると考えられ、結果として「農林水産省提案」は行政上も大きな痛手になることを危惧します。
 「林業、林産業、山村さらには人間と森林との幅広いかかわりに関する社会科学および人文科学の理論的・実証的研究の向上」を目的とする林業経済学会では、常に、政策立案者や農山村の住民と研究者との対話や協働を探求しており、長年の活動を通じて、公的統計が実務者と研究者の双方をつなぐ貴重な資産であり媒体であることを熟知しています。加えて、情報処理技術の発達によりビッグ・データの活用が進むなか、公的統計情報は、社会的なインフラストラクチャーとして、その重要性が増しています。農業集落調査は、農山村を対象とする研究や行政の基礎であるばかりでなく、他の統計情報とリンクさせることによって、社会の広汎な領域において多様な活用の方法が検討されており、その進展が期待されています。「農林水産省提案」はビッグ・データ活用の可能性をも閉ざすものです。
 上記の観点から、「農林水産省提案」は、農林水産行政や地方自治行政に困難さを招くこととなり、ひいては地方創生の機運や国土強靭化などを大きく損なうものであると危惧します。またEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)や超学際といった学術分野全般の動向からしても、調査の廃止による深刻な影響を憂慮します。 以上より、2025年度実施される「農林業センサス」において、農業集落調査が調査項目を縮減することなく、少なくともこれまでどおり実施されることを、ここに強く要望します。さらに、これを阻害するような統計行政における種々の障害があるとすれば、それらが一刻も早く克服されることを希求します。
 なお、森林・林業・山村関係の統計調査項目の縮減や改編については、当学会としてこれまでも注視してきましたし、今後も引き続き注視していきます。学会活動の中で、統計実務担当者を交えた情報共有や連携を深めてゆくなど、相互のさまざまな取り組みにも前向きに臨みたいと期待を込めて考えています。  
                                                                                    以上